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労災療養中の解雇制限解除の対象範囲を広げた最高裁判決―最高裁汚点残す―

労災療養中の解雇制限解除の対象範囲を広げた最高裁判決―最高裁汚点残す―



専修大学事件最高裁判決(第2小法廷・平成27年6月8日)「裁判要旨:労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,使用者は,当該労働者につき,労働基準法81条の打切補償を支払って,同法19条1項ただし書の適用を受けることができる」の全文を読んだ。
 当該事件の争点はただ一つである。すなわち「労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,使用者は,当該労働者につき,労働基準法81条の打切補償を支払って,同法19条1項ただし書の適用を受けることができるか否か」である。
 今回の最高裁判決は、1審(東京地裁)、2審(東京高裁)判決を覆し、「労基法19条ただし書の適用を受けることができる」とした。
 当事件の東京地裁判決(平成24年9月8日労経速No.2163)を読んで、私は「地裁判決は、条文の趣旨について、その制定の歴史から説き起こし、論理も緻密・具体的で合理性があり、最高裁がこの地裁の法理・論理を覆すのは至難の業」「最高裁判決が、先に結論ありきのズサンなものだったらガッカリ」とブログに書いた(27.6.11)。予想は的中した。
 今回の最高裁判決の内容は、地裁判決(高裁判決は、地裁判決の趣旨を全面的に肯定している)への反論は、何一つなされてなく、結論だけ「解雇は合法」とした判決である。

 最高裁判決の概要は以下である。
1、労災保険法に基づく保険給付の実質は,使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第621号同52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁参照)。
2、労災保険法に基づく保険給付の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば,同法において使用者の義務とされている災害補償は,これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので,使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで,同項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い。
また,後者の場合には打切補償として相当額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば,これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難い。
そうすると,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は,解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては,同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

 たった、これだけである。そしてこの判示は、すでに地裁・高裁判決が、大学側の主張は採用することができないとした内容を、「採用した」だけのもので、地裁・高裁の判示に対する反論は何一つないものである。
 一々書く気もしないが、前記最高裁判示1、2に対比して、当該最高裁判決判示を否定している高裁判決判示と地裁判決判示部分を示しておきます。
1、最高裁50年判決を引用しているが、こんなことを否定するものは誰もいない。労働基準法規定の使用者の災害補償義務と労災保険法に基づく保険給付の関係については、地裁判決も、「実際の機能面においては、労基法上の災害補償の責任保険的機能を果たしており(菅野和夫「労働法[第9版]377頁)、労災保険法に基づく保険給付は、労基法に規定する災害補償責任が生じた場合に行うものとされ(労災保険法12条の8第2項)、また、労基法に規定する災害補償の事由について労災保険法または命令で指定されるその他の法律に基づいて労基法上の災害補償に相当する給付が行われた場合には、使用者は労基法上の災害補償責任を免れるものとされた(労基法84条1項)」としている。

2、そのうえで高裁判決(平成25年7月10日)は、「労基法81条は、同法の『第75条の規定によって補償を受ける労働者』が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において、打切補償を支払うことができる旨を定めており、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れられていない。また、労基法84条1項は、労災保険法に基づいて災害補償に相当する給付がなされるべきものである場合には、使用者はこの災害補償をする義務を免れるものとしているにとどまり、この場合に使用者が災害補償を行ったものとみなすなどとは規定していない。そうすると、労基法の文言上、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労基法81条所定の「第75条の規定によって補償を受けている労働者」に該当するものと解することは困難というほかはない。
 このように解すると、使用者は、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者に対し、災害補償を行っている場合には打切補償を支払うことにより解雇することが可能となるが、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合には打切補償の支払によって解雇することができないこととなる。しかし、労基法19条1項ただし書前段の打切補償の支払による解雇制限解除の趣旨は、療養が長期化した場合に使用者の災害補償の負担を軽減することにあると解されるので(〈証拠略〉)、このような差が設けられたことは合理的といえる。もっとも、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合においても、雇用関係が継続する限り、使用者は社会保険料等を負担し続けなければならない。しかし、使用者の負担がこうした範囲にとどまる限りにおいては、症状が未だ固定せず回復する可能性がある労働者について解雇制限を解除せず、その職場への復帰の可能性を維持して労働者を保護する趣旨によるものと解されるのであって、使用者による社会保険料等の負担が不合理なものとはいえない。」(下線は筆者、以下同じ)と判示している。

3、地裁判決は、大学側の主張の一つ一つを子細に、かつ具体的に検討し、その主張を根拠のないものとして全面的に退けている。そのなかから三点の論点を示しておきたい。
 (1)大学側は、「『使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払う』(労契法6条)という労働契約の基本的な関係を維持することが社会通念上困難な状態にある場合には、本来、労基法81条の打切補償により解雇制限を解き、雇用契約関係を解消させるべきであるとの見解を前提としている」が、「傷病補償年金による補償の程度は年金という制度を採用することにより、療養補償給付等のそれよりも充実しているのであるから、『労基法の解雇制限との関係は従来のまま引き継ぐとの考えに立って』との立法方針が、単なる療養補償給付を受給している労働者の使用者についてまで及んでいたものと解するには十分な根拠資料の存在が必要であるが、本件全証拠を子細に検討しても、そのような資料(証拠)は何処にも見当たらない。」

(2)「(傷病補償年金を受給できる)一般に、障害の程度が傷病等級3級以上という状態として労働不能となる重篤な状態の労働者については、そもそも職場復帰の見込みがないに等しく、労基法19条1項本文の解雇制限に基づき雇用を維持する必要性が低いのに対し、障害の程度がそこまでの状態に至らない傷病等級の労働者については、なお職場復帰の可能性は大なり小なり残されているのが通常であろうから、その意味では労基法19条1項本文の解雇制限に基づき雇用を維持する必要性が高いものということができる」(傷病補償年金受給者にたいしては、打切り補償の支払いによって解雇制限を解除できると明記しているのに対し、療養給付受給者については解雇制限解除の規定がおかれていないのは、)「労災保険法それ自体が療養補償給付を受給する労働者の使用者に対して労基法81条の打切補償による上記の解雇制限の解除を容認しない立場を採用しているからにほかならないというべきである。」

(3)大学側の主張「打切補償によって解雇制限は解除される」(=最高裁の今回の判断)という「価値判断は、労基法19条1項本文の解雇制限の適用範囲を不当に狭めかねない危険性を有するものであって、業務上の疾病等により療養休業中の労働者の雇用関係や労災保険制度の運用等に禍根を残すおそれなしとはせず、当裁判所(地裁)としては、にわかに賛同し難い見解であると言わざるを得ない。」

 これまでの通説・政府解釈を覆し、明文にない解釈を採った今回の最高裁判決は、それが法解釈の最高権威である最高裁の判断であるだけになおさら「業務上の疾病等により療養休業中の労働者の雇用関係や労災保険制度の運用等に禍根を残」した罪深い判決として歴史に記録されるものであると言わなければならない。


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労災で療養中の労働者の解雇制限解除の対象範囲を広げた最高裁判決

労災で療養中の労働者の解雇制限解除の対象範囲を広げた最高裁判決は妥当か



 最高裁第二小法廷(鬼丸かおる裁判長)は、6月8日、専修大が、労災認定されて休職中だった職員を解雇した手続きの適否が争われた訴訟の判決で「病気やけがで休職中の労働者の療養費を、使用者でなく、国が労災保険で負担している場合も解雇できる」との判断を示した。

 これは、労働基準法81条(打切補償)「第75条の規定(業務災害の療養費は使用者が負担しなければならない)によって補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過してもなおらない場合においては、使用者は平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。」のこれまでの政府解釈を変更するものである。
 一審(東京地裁)、東京高裁も「解雇は違法・無効」との判決を下していた。

 メディアは今回の最高裁判決について「解雇可能な対象労働者を広げる判決」と報じている。これに対し、私と同業である社会保険労務士諸氏から「当然の判決」「基準法通り」「労災の給付で療養している労働者は、打切補償を払っても解雇できないなら、会社は上乗せ補償などあほらしくてしなくなる」との意見が聞かれる。

 私は、最高裁判決の全容を未だ読んでいないが、最高裁が、どういう論理構造で今回の判断を下したのか、地裁・高裁の判断をどのような論理で覆したのか、丹念に研究したいと思う。

 手元に高裁判決はないが、地裁判決(「S大学事件」東京地裁平成24年9月28日判決)は岐阜県社会保険労務士会の「労働判例研究会」のテーマで検討した。
 そのとき、認識を新たにしたことは、「療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合には、労基法81条の規定による打切補償を支払ったものとみなし、労基法19条1項本文の解雇制限は解除されるが、療養補償給付については前記解雇制限の解除は容認されない」という労基法及び労災保険法の解釈だった。
 東京地裁判決を子細に読むと、労災保険法制定の趣旨、改定の歴史とその趣旨など丁寧に検討され、労基法や労災保険法の関係条文解釈も、実に論理的なことに気付く。

 地裁判決の判示事項を「労働経済判例速報(平成25.2.28)」から抜粋してみる。
 ①労災保険の給付体系と労基法の補償体系は、使用者の補償責任の法理を共通の基盤としつつも、基本的には並行して機能する独立の制度であると解するのが相当。「労災保険給付を受けている労働者」と「労基法上の災害補償を受けている労働者」を軽々に同一視し、その法的取扱いを等しいとする必然性はない。
 ②労基法81条は、単に労基法19条1項本文の解雇制限を解除するための要件を定めるだけでなく、労基法19条1項本文違反の解雇を行った使用者を処罰するという公法的効力、すなわち処罰の範囲を画するための要件でもあるから、労基法81条にいう「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲は、原則として文理解釈によって決せられるべきである(罪刑法定主義)。
 ③労基法81条の打切り補償の趣旨は、療養給付を必要とする労災労働者の生活需要よりも、補償の長期化によって使用者の負担を軽減することに重点があり、その意味で、使用者の個別補償責任を規定する労基法上の災害補償の限界を示すものと解されるところ、労災保険制度は、使用者の災害補償責任(個別補償責任)を集団的に填補する責任保険的機能を有する制度であるから、使用者は、あくまで保険者たる政府に保険料を納付する義務を追っているだけであり、これを履行すれば足りるのであるから、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」との関係では、当該使用者について補償の長期化による負担の軽減を考慮する必要はなく、労働基準法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」とは、文字通り労基法75条の規定により療養補償を受けている労働者(労災保険の給付ではなく使用者の負担によっている)に限るものと解され、明文の規定もないのに、上記「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲を拡張し、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」と読み替える(注―「読み替える」ですよ)ことは許されない。
 ④労災保険法19条は、(1)療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合には、労基法81条の規定による打切補償を支払ったものとみなし、労基法19条1項本文の解雇制限は解除されるのに対し、療養補償給付について明文の規定を置いていないのは、労災保険法それ自体が療養補償給付を受給する労働者の使用者に対して労基法81条の打切り補償による解雇制限の解除を容認しない立場を採用しているからである。
 ⑤よって、原告労働者は、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」には該当せず、本件打切補償金の支払は、労基法19条ただし書き前段にいう「使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合」に該当しないこととなり、同項本文所定の解雇制限は解除されず、これに対する本件解雇は無効である。

 東京地裁判決は(高裁判決も同じだと推量される)実に丁寧でしっかりした検証と論理だと思う。最高裁判決はまだ読めていないが、この判示の一つ一つを(結論先にありきでなく)しっかりとした法理と論理で覆すのは、至難の業と思うのだが??

 つづきは、今回の最高裁判決を子細に読み、検討して意見を書きたいと思う。

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